パネル3


パネルタイトル:「中国人学習者のプロフィシェンシー教育」

 

要旨

「プロフィシェンシー」という概念は日本ではすでに多くの学者に認識されている一方、中国ではまだそれほど良く耳にする言葉になっていないのが現状である。日本語OPIも近年になってやっとすこしずつ知られるようになった。この特別企画パネルでは、まず2名の中国人テスター楊と曹がOPIデータを用いて、中国人学習者の会話におけるプロフィシェンシーについて考察する。楊発表では特に上級学習者にフォーカスし、その口頭運用におけるパターン化した誤りについて論じる。曹発表では2回のOPIを通して、学習者のレベルの変化を検討し、さらに学習環境とレベルの変化の関係性について言及する。その次に、肖が新しい教育方式を目指し、大学の通訳授業におけるプロフィシェンシー教育の試みについて論じる。最後に、董が中国人中級日本語学習者のリピーティングパフォーマンスについて分析し、それとプロフィシェンシーとの関係性を模索する。

発表者、タイトル(概要)

(司会進行は楊帆)

  1. 楊帆 (海南大学)

中国人上級日本語学習者のOPIから見るプロフィシェンシー

日本語学習において、学習者の口頭能力は学習時間と使用頻度の増加にしたがって、初級から中級へ、さらに中級から上級へとレベルアップしていく。しかし、上級を突破して超級レベルになることは、なかなか容易なことではない。本発表では上級日本語学習者のOPIデータに基づいて、口頭表現におけるパターン化した問題点を考察し、口頭能力の向上を目指す、上級学習者向けの日本語教育にフィードバックすることを目的とする。
計30名の上級日本語学習者のOPIデータを分析した結果、パターン化した誤りでは、(1)文構造の呼応関係の問題、(2)スピーチレベルの問題、(3)中国語語彙使用の問題が認められた。

 

  1. 曹娜 (上海外国語大学)

中国における日本語学習者のプロフィシェンシーを測る―ACTFL-OPIを用いて―

ACTFL-OPIは日本語学習者の口頭運用能力を測定できると言われている。そして、OPIを用い、日本語学習者の口頭運用能力を考察する研究が日本において珍しくない。しかし、中国で日本語を学習する学習者の口頭運用能力がまだ解明されていない。本発表は中国の大学で日本語を専門とする学習者40人を対象に2回OPIインタビューを行い、大学で二年間、及び三年間日本語を学習して、日本語の口頭運用能力はどういったものかについて探ってみたい。

 

  1. 肖輝(しょう き) (大連外国語大学)

大学の通訳授業におけるプロフィシェンシー教育の試み

通訳教育は外国語教育の延長線ではないと主張しているが、外国語によるニケーションのコツを教えることは両者の共通点である。通訳教育では、プロフィシェンシー、つまり外国語の「熟達度」が求められている。しかし、受講者はただの「外国語学習者」にとどまり、なかなか「外国語利用者」になれないのが現状である。したがって、「生」のコミュニケーション能力の育成を主とするプロフィシェンシー教育は通訳教育の実施の基盤の一つになるではないかと思う。プロフィシェンシーの基本的構成概念とされる「機能・タスク」「場面・内容」「正確さ」「テキスト」に注目し、通訳授業でフィシェンシー教育を試みたい。通訳授業のカリキュラムー作成、教授法、トレーニングにその成果を活用したいと考えている。

 

  1. 董博 (大連外国語大学・拓殖大学大学院博士後期課程)

中級中国人日本語学習者のリピーティングパフォーマンスについての一考察―キーワード記述の有無、再生回数、再生音節数による評価の視点から―

目標言語との接触のチャンスの少ない海外日本語教育の現場では、例えば、中国の場合、特別な事情を除き、日本語が習得できる場は教室に限られている。その事情のもと、中国における日本語教室では、受容能力を産出能力に繋げていくために、さまざまな練習法が活用されている。その一つがリピーティングである。外国語教育では、リピーティングが有効な練習法として活用されている一方、様々な指導法や練習法の効果を検証するために応用されているリピーティングテストがある。しかし、これまでのリピーティングテストは実験用のテストが多く、モデル文が初級向けの単文が多く使われていた。そこで、本研究では、中級にとってどのようなテストが効果的かを探るために、中級中国人日本語学習者のリピーティングパフォーマンスに関わる要因を調査した。調査方法としては先行研究では解明されていない、中級向けの文つまり複文のモデル文を使用し、具体的に、キーワード記述の有無、再生回数、再生音節数によってテスト結果に違いがあるかを分析した。最後に、再生率の上位群と下位群ではキーワード記述に質的な違いがどのように見られるかについて分析した。

 

<パネラー略歴>

楊帆(よう はん)

海南大学教授

略歴

・甘粛省蘭州市出身

・東北大学(日本)文学研究科にて博士号(文学)を取得

・山形大学特任講師、秋田大学助教、北海道教育大学准教授を経て現職

・専門は日本語教育学、特に教授法、教師のフィードバックに関する研究

主要業績:

・「中級日本語学習者の作文における困難点—文構造の呼応関係について—」[J](2014 『秋田大学国際交流センター紀要』 3:15-28)

・「感情・評価的意味を持つ文とプロフィシェンシー」[J].(2015 『日中語研究と日本語教育』8:38-48)

・「バイリンガルになる過程における私と日本語」[J](2017 『ことばと文字』7:33-43)

・「高级日语学习者类似表达的区分使用能力的提高—论学习档案袋与教师即时反馈相
结合模式的成效」[J](2017 『中日教育論壇』7:43-52)

・「日语教学中学习档案袋与教师即时反馈结合模式的成效」[J](2018 『中日教育論壇』7:34-44)

 

曹娜(そう な)

上海外国語大学専任講師

略歴:

・吉林省長春市出身

・東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科にて博士号(教育)を取得

・専門は日本語教育、日本語教育文法

主要業績

・「言語知識と口頭言語運用能力の関係を探る―中国日本語専門四級試験とACTFL-OPIを中心に―」(2017 『東アジア日本語・日本文化研究』第22集特別号 仁川大学校 日本文化研究所)

・「ACTFL-OPI在日本日语教育界的应用对中国的借鉴意义分析”」(2016 日语学习与研究》2016年第二期 对外经贸大学编)

・「ACTFL-OPIの中国における日本語に関する第二言語習得研究への応用-文末接続表現の使用状況を一例として―」(2014 『東アジア日本語・日本文化研究』第19集 仁川大学校 日本文化研究所)

・「ACTFL-OPIが中国の日本語に関する第二言語習得研究への応用」(2014 『日语教学与日本文化研究-2013年度上海外国语大学日本文化经济学院国际研讨会论文集』,华东理工大学出版社)

・「ACTFL-OPIを中国における日本語教育に導入する必要性について」(2014 『国际化视野中的专业日语教学改革与发展研究』 天津科学技术出版社)

 

肖輝(しょう き)

大連外国語大学准教授

略歴:

・遼寧省大連市出身

・早稲田大学アジア太平洋研究科にて修士号(国際関係学)を取得

・大連外国語大学専任講師を経て現職

・専門は日本語教育学、通訳翻訳教育

主要業績

・『日语阅读训练——通过流行语看日本』(2012 外语教学与研究出版社 共著)

・『日语口译进阶教程』(2015 長春出版社)

・『新经典日本语—口译基础教程』(2019 外语教学与研究出版社 共著)

・『上級日本語教材 日本がわかる、日本語がわかる ―ベストセラーの書評エッセイ24― 』(2019 凡人社 共著)

 

董博(とう はく)

大連外国語大学専任講師

略歴:

・遼寧省西豊市出身

・東京学芸大学総合国際教育研究科にて修士号(教育)を取得

・拓殖大学言語教育研究科博士後期1年

・専門は日本語教育学、第二言語習得特に言語テストに関する研究

主要業績

・「あっての”から“~ての”の統語機能について」[J](2010 『東アジア日本語教育・日本文化研究学会』第13号.東アジア日本語教育・日本文化研究学会)

・「言いさし“テ”形の談話機能―談話ストラテジーの観点から―」[J](2011『東アジア日本語教育・日本文化研究学』第14号.東アジア日本語教育・日本文化研究学会)

・「ポライトネスの観点から見た日中断り発話の対照研究の再考察―日本語教育の立場から出発して」[J](2015『学芸国語国文学』 第47辑.(『日本語学論説資料』に転載)

・「高校日语专业期末测试项目分析的基础研究」[J](2016 『大连大学学报』第2期 共著)

・「語言行為測試与日語測試発展的思考」[J] (2016『科技资讯』 第28期)