パネル2


パネルタイトル:「多様化する個とプロフィシェンシー研究」

 

要旨

これまで、プロフィシェンシー研究は、「到達度」に対する「熟達度」とは何か(プロフィシェンシーの概念)、「できる」とはどういうことか(タスク)、そして「自然さ」とは何か、という問いを掲げて発展してきている。
一方、ことばは個人個人で異なるものであり、それを用いる目的、意識も異なる。このような個別性をもプロフィシェンシーの捉え方に反映するのならば、それを汎用性のある評価基準で捉えようとすることには一定の困難が伴うこともまた事実であろう。しかしながら、プロフィシェンシー研究においては、個人差や個別の社会的目的、さらには複言語性といったことについては積極的には議論されてはいないのが現状である。
そこで本パネルでは、「個人のことば」と「ことばの一般性」について考えたい。堤発表はフィラーを取り上げ、個人差の中の一般性を見いだそうとする。岩﨑発表は、社会的目的を達成するためのテキストタイプを「ジャンル」と捉え、その中に個人の社会的目的を取り入れて提案する。松田発表では、複言語性が顕在化する現在において、それぞれの話者の主体性や言語選択の問題に切り込む。継承語話者の意識調査を通じた今後の研究への提言を行う。

発表者とタイトル

  1. 堤良一 (岡山大学)

プロフィシェンシーに基づいて研究するということは、個人差へのチャレンジを意味する。個人差の中に、ことばの法則を見つけるような方法論は、どのようなものが考えられるであろうか。本発表ではフィラーをとりあげ、これらが個人差を強く反映しながら、しかし一方である種のフィラーの使用の仕方が、その人物のキャラクタや、それが使用される場面に依存する姿を描き出す。その上で、それらのフィラーの文法的な振る舞いを考えることで、一般的な文法記述と個人差の言語研究の橋渡しとなることを示唆したい。

 

  1. 岩﨑典子 (南山大学)

ジャンルとプロフィシェンシー研究

「ジャンル」の定義は様々であるが、体系機能言語学では、社会的目的を達するためのテクストタイプ(例えば、ナラティブ、報告)をジャンルと捉える。

OPIのレベル判定に用いるACTFLプロフィシェンシーガイドラインは、学校教育に役立てるためのもので、主にアカデミックな場面でのタスク遂行の評価を目的としている(ACTFL 2012)。中級・上級のタスクは、目的を問わず遂行が望ましい会話のやりとりや語り・描写であるが、超級ではアカデミックな場面で求められることの多い、専門分野について論じる、議論するなどのタスク遂行が求められる。社会的目的別のジャンルで分類すると、「意見を表明する」、「議論する」などである。しかし、日本語を学習する目的は多様で、学業のためとは限らない。すでに鎌田ら(印刷中)が開発中のJOPTは、アカデミック、ビジネス、コミュニティ領域に分けた会話テストであり、多様な目的に対応している。本発表では、話す・聞く・読む・書くなどの活動を問わず、「物語る」、「楽しませる」、「引きつける」など多様な日本語使用のジャンルを念頭に、OPIでは測れない能力(例えば、アピール性、エンタメ性、社交性)も含む目的達成度をプロフィシェンシー研究に取り入れることを提言する。

 

  1. 松田真希子(金沢大学)

「生きたことば」の主体的使い手としてのプロフィシエンシー

プロフィシエンシーを構成する概念の一つにオーセンティシティがある。オーセンティシティを人と場に宿る「生きたことば」とすると、その言語使用者が、どれだけそのことばを自分の文脈の中にとりこみ、主体的に「生きたことば」として使えているかがプロフィシエンシーの高低を決めると考える。しかし、日本語学習者のプロフィシエンシーをOPIで測る際に、現状として言語のオーセンティシティや主体性に関する議論が不十分であると思われる。特に一人一人の複言語性が顕在化する現在において、何をもってオーセンティックとするか、主体的言語選択や言語使用をどこまで評価するかといった点においては十分に議論する必要がある。本発表では継承語話者(複言語話者)としての日本語使用者の日本語使用意識、実際の日本語使用の調査結果をもとに、今後の日本語プロフィシエンシー研究のありかたについて提案を行う。

 

<パネラー略歴>

堤良一(つつみ りょういち)

岡山大学准教授

略歴

・大津市出身。

・大阪外国語大学言語社会研究科にて博士号(言語文化学)を取得

・岡山大学文学部講師、大学院社会文化科学研究科助教授を経て現職。

・専門は日本語学、特に指示詞・フィラー等の談話理論的研究。

・最近は、「引き上げ方式」と称する教授法の開発に取り組んでいる。

主要業績:

・『現代日本語指示詞の総合的研究』(2012ココ出版)

・『「大学生」になるための日本語』堤良一、長谷川哲子(2009,2010ひつじ書房)

・「直接経験が必要ない記憶指示のアノ」岡﨑友子他(編)『バリエーションの中の日本語史』(2018くろしお出版),139-156

 

岩﨑典子(いわさき のりこ)

南山大学教授

略歴:

・京都出身

・アリゾナ大学 Interdisciplinary PhD Program in Second Language Acquisition and Teaching (SLAT)でPhDを取得

・日本語教育は京都日本語学校(非常勤講師)、ワシントン大学(講師)、マサチューセッツ大学アマースト校(助教授)、カリフォルニア大学デービス校(助教授)で主に携わり、ロンドン大学SOAS言語学科(Senior Lecturer)を経て2018年9月より現職。

・専門は応用言語学(第二言語習得研究、語用論、L2リテラシーなど)

主要業績

・『移動とことば』川上郁雄、三宅和子 、岩﨑典子(2018くろしお出版)

・The Grammar of Japanese Mimetics: Perspectives from Structure, Acquisition and Translation, Noriko Iwasaki, Peter Sells, Kimi Akita (Eds.), Routledge. 2017

・The Routledge Intermediate-Advanced Japanese Reader: A Genre-based Approach to Reading as a Social Practice [ジャンル別日本語:日本をクリティカルに読む] Noriko Iwasaki & Yuri Kumagai, Routledge. 2016

 

松田真希子(まつだ まきこ)

金沢大学准教授

略歴:

・広島生まれ。

・一橋大学大学院言語社会研究科にて博士号(学術)を取得。

・長岡技術科学大学講師を経て、2010年より金沢大学准教授、現在に至る。2017年サンパウロ大学日本文化研究所客員教授。

・専門は日本語を含む複言語話者の言語・教育研究、音声コミュニケーション研究。最近は南米日系人の複言語能力の研究やベトナム人日本語学習者の日本語習得の研究などを行なっている。

主要業績

・『ブラジル人のためのニッポンの裏技』松田真希子、ティアゴ・サレス・ピント(2008春風社)

・『ベトナム語母語話者のための日本語教育: ベトナム人の日本語学習における困難点改善のための提案』松田真希子(2016春風社)

・『複言語・複文化時代の日本語教育』本田 弘之, 松田 真希子編(2016凡人社)